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語るように歌いなさい

日本もとっても寒いようですね。
山形出身のチェンバリスト、須藤真知子ちゃんと合わせをしたあと、今の実家の様子と見せてもらった写真はすごい雪景色でした!

アムステルダムは朝から突然雹が降ったかと思えば、太陽が出たり、相変わらず謎なお天気です。寒いのには変わりありません。

さて、タイトルのお話。
僕の大好きな先生たちはみんなこのようにおっしゃいました。
ウィーンでお世話になったレヒナー先生、ルッツ先生、スペンサー先生、そしてアムステルダムで教えてもらっているクセニア先生、ホーニヒ先生…みんな道をそれそうになるとそうおっしゃいました。
声だけに頼るのは初心者と同じ。
詩を語りなさい、それだけでいいの。と。

京芸時代からの恩師、三井ツヤ子先生ははじめてこのことをお話くださった方でした。
とにかく声を育てようと躍起になっていた僕に、先生は一、二年生のころはほとんどなにもおっしゃらず、ただただたくさん歌いなさいとおっしゃるだけでした。
たまに変な声を出すと、それ、ちゃうで!とおっしゃいますが、注意はそれくらい。
あとはとにかく僕の好きなように、伸びやかにとおっしゃり、僕もなんとなーくのらーりくらーりと歌っていました。

大学の三年生になったら先生のレッスンは急にストイックになりました。
要求なさることは格段に難しくなったと記憶しています。

シューベルトのガニュメートを歌っていたときに、急に先生がピアノをとめてこうおっしゃいました。
『ちょっとクイズするわな。楽器にあって歌だけにあるもの、なーんだ』と尋ねる先生。
『そんなん言葉ですやん(先生なに言うてたんのん)』
と僕が先生に答えると
『わかってんねやったら、言葉を語りなさい。声だけ考えたらあかん』
と、今まで見たことないくらい真剣な顔でおっしゃいました。

先生はいつも穏やか、絶対気取らないし、自然体で面白い人です。
いつも僕には優しかったので、その時の一瞬のすごみといったらありませんでした。

歌にだけあるもの。
それから僕はいつだって言葉を大切に思うようになりました。

もちろん声楽なので、声が美しく響くことが大前提。

でもそのとき先生が加えておっしゃったもう一つ大切なことは、
単に声だけ磨くのか。
言葉がそういう音色を欲しがってるから、そのために声の引き出しを増やすのか。
どっちが答えかは、あんたわかるやろ。
ということでした。

たまに、声楽を学んでしばらくしてから声の出し方がわからないって言う人いますよね。
よくあるのが、声のことだけ考えてるというのがその原因です。

言葉がそうあるから、どういう音色がいいのか、どういう息遣いがふさわしいのか、どういう背景なのか、、、
すべての要素の出発点がその言葉なのです。

こんなこともありました。
シューベルトのDu bist die Ruhという当時の僕にはめちゃくちゃに難しかった曲を勉強していたとき。

はじめのDu bist die Ruhというフレーズを歌うときに、息をすった瞬間に違うと止められました。

まだ歌ってもないのに、なんで!!
と思った僕に先生は
『もっかいはじめから』

伴奏がはじまり、もう一度同じところを歌おうと吸うと
『ちゃう』

ええええー!なんでやねん!と思いました。僕が教えてたらすぐ言っちゃう答えですが、先生は『一週間考えてきてー。』

一週間考えて、Ruh憩いというブレスでは決してなかったのです。
教え急がず、生徒にきちんと時間を与えて、自分で自分の音楽の道を考えながら歩める方法みたいなものを先生は当時から僕に与えてくださっていたんです。

ああ、なんという先生!

それから僕は同じような感性を持った先生方とたくさん勉強できました。
そういう音楽家になりたいと思ったのは、僕のもともとの感性もあったかもしれないけれど、ターニングポイントでそれぞれの先生がその大切なものをもう一度見つめる機会を与えてくださったからです。

そんな尊敬して止まない三井ツヤ子先生のリサイタルが、12月12日(大変もう明日!)に大阪のいずみホールで開催されます。
語るように歌いなさい_a0279221_06241197.jpg
ピアノに先生の昔の盟友アントニー・スピーリさんの弟子、山田剛史さんを迎えられました。

近代歌曲のリサイタル、シェーンベルク、ベルク、マルクス、そしてラフマニノフを歌われます。
言葉と前衛的な音が完全にリンクした傑作揃い。
先生にしか出せない、先生だけの世界が待っているでしょう。

またしても聴けないなんて!!!
三年連続で聴けない僕。先生にお電話で聴かせていただけないことをお詫びすると

『えー!ほななかじがいーひんかったからうまく歌われへんかったって言い訳しよー!』とおっしゃっておられました。
いやいや、先生はいつだって僕たち生徒の目標、必ず良いものを残してくださると確信しています。

お時間ある方は、是非お出かけくださいね。

なかじ

by musiccreater_tn | 2018-12-11 06:02 | 日常 | Trackback | Comments(0)

関西出身、高カロリーな食べ物が大好きな声楽家・カウンターテナー中嶋俊晴の日常と思いつきを綴るブログ!


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